友達
一
小さな漁村に小学校があった。
村の家々は小さく、家々は海岸沿いに点在していた。
その村外れの崖の上には一軒の大きな屋敷が建っていた。
また反対側の村外れの丘の上には小さな小屋が建っていた。
その小屋には星野光という小学校五年生の男子が独りぽっちで住んでいた。
光は一年前小学校四年生の晩秋にどこからともなく転校してきた。
光の両親はなくまた家族もいなかった。
しかし誰にでも親切で正義感も強く学校でもみんなから仲良くされていた。
その丘の下の海沿いに家が一軒建っていた。
光の友達の近藤由里子の家だった。
由里子の父親は誰にでも親切で光はまるで家族のようにされていた。
しかし漁師をしていて一ヶ月前に海の事故で死んでしまい今では由里子は光と同じように独りぽっちで住んでいた。
由里子は小さいときに捨てられていたということで死んだ父親が一人で育てていた。
由里子は性格は明るく活発で少し茶目っ気があり学校でも人気者だった。
二
「星野君、あの村外れの大きな屋敷にはすごくきれいな娘がいるんだってさ」
「ふうん」
休み時間に教室で光と友達が話しをしていた。
そこに由里子がやってきた。
「星野君、ちょっと」由里子が光を呼んだ。
「なんだい？」光は由里子のところに行った。
「今日放課後、時間ある？」
「うん。なぜ？」
「ちょっと相談したい事があるからつきあって欲しいの」由里子が小さな声で言った。
「どこに？」
「それは後で話すわ」
「うん。いいよ」光がうなずいた。
「ありがとう」由里子は離れて行った。
やがて放課後になった。
由里子は光を連れて家とは反対方向に行った。
「あれ？ どこに行くんだ？」光が聞いた。
「村外れの大きなお屋敷よ」
「え！」光が驚いて立ち止まった。
「さっきも話していたでしょ。あのお屋敷のお嬢さんの話しを？」由里子が聞いた。
「うん」光がうなずいた。
「私、あそこのお嬢さんと友達になったの」
「へえー」光は驚いた。
「あそこのお嬢さんは私よりも三歳年上なんだけど体が弱いので家の中に閉じ込もっているんですって」
「ふうん。気の毒にね」
「お母さんは五年前に亡くなってしまい今はお父さんとお母さんの妹のおばさんとお嬢さんの妹との四人暮らしなんですって。なんでもその妹さんは生まれてすぐにさらわれてしまい三年前に帰ってきたんですって」由里子が説明した。
「ふうん。見つかって良かったよねえ」光が感心したように言った。
「その連れ帰った人がおばさんなんですって」
「よく見つかったねえ」光がうれしそうに言った。
「だけどその妹さんは偽者らしいんですって」由里子が小さな声で言った。
「偽者？」光は驚いて思わず声を上げた。
「シ！ あまり大声を出さないでよ」由里子があわてて言って思わず周りを見た。
「ごめん。あまり驚いたものだから。なんで偽者なんか？」光が首をかしげた。
「それはね。財産目当てという事よ。真里子さんは体が弱いからもしも死ぬような事になったら全部妹さんのものですもの」由里子が声をひそめて言った。
「そのお嬢さんの名前は真里子さんっていうの？」
「ええ、妹さんの名前は私と同じ由里子っていうのよ」由里子がうなずいた。
「ふうん、近藤さんと同じ名前かあ」光が何かを考えるようにつぶやいた。
やがて屋敷の裏に来た。
屋敷の裏には大きな木が生えていた。
木の枝は二階の真里子の部屋のテラスに伸びていた。
光と由里子は木をよじ登ってテラスに降りた。
部屋の中では真里子が一人で本を読んでいた。
「真里子さん！」由里子が静かに声をかけた。
真里子が振り向いた。
「あ、由里子さん」真里子はテラスの扉を開けた。
由里子と光が部屋の中に入った。
「由里子さん、そちらは？」真里子が聞いた。
「こちらは星野光君、いろいろと相談にのってもらっているのよ」由里子が光を紹介した。
「よろしく。大体の話しは近藤さんから聞いたけどその話は本当なの？」光が真里子に聞いた。
「ええ、妹は由里子さんと同じ名前なんだけどどうも偽者みたいなのよ」真里子が心配そうに言った。
「真里子さんは体が弱いそうですね？」光が気の毒そうに真里子を見て聞いた。
「ええ、三年前から。丁度妹が来た頃からなの。それまでは丈夫と言うほどではなくても、そんなに体が弱かった訳じゃなかったんだけど・・」真里子が口ごもりながら言った。
「そうするとその事も関係して疑ったんですか？」光が驚いたように聞いた。
「そういう訳じゃないけど何となく気味が悪いのよ」真里子が薄気味悪そうに言った。
「わかった。僕ができるだけ調べてみるよ」
「どうするの？」真里子と由里子が声をそろえて聞いたのでお互い顔を見合わせてしまった。
「二人とも気が合うんだねえ」光が笑いながら言った。
真里子と由里子は顔を見合わせて笑ってしまった。
「まかせておきなよ。本者か偽者か調べて上げるよ」光が笑顔で力強く言った。
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