荀彧文若（じゅんいくぶんじゃく）

　荀彧（じゅんいく）は若い頃から「王佐の才（王者を補佐する才能）を持っている」と言われていた。
　初め袁紹（えんしょう）の元に行ったが袁紹が大事業を成し遂げることはできないと判断し、曹操（そうそう）の元に行った。
　曹操は「わしの張子房（ちょうしぼう）（漢創生期の謀臣）だ」と言ったのは演義と同じ。
　曹操に献帝（けんてい）を本拠地の許に迎えて都にするように進言し、曹操がそれを受け入れた。
　この事で漢の侍中・守尚書令（じちゅう・しゅしょうしょれい）に任命された。
　曹操は出征して都の外にいるときでも、軍事・国事に関する全てのことを荀彧に相談した。
　暇なおりに曹操に対して政道を論じ曹操はいつも喜んでこれを受け入れていた。
　また、荀彧が推挙した人物は皆一代の英才ばかりだった。
　主なところでは、荀攸・鐘ヨウ・陳羣・司馬懿・郭嘉（じゅんゆう・しょうよう・ちんぐん・しばい・かくか）など多才に渡り、大臣に登ったものは十数人を数えた。
　司馬懿はいつも「書物に書かれていることや遠方の出来事を見たり聞いたりしているが、百数十年間にわたって荀彧に及ぶ賢才は存在しない」とたたえていた。
　曹操は「荀彧は袁紹を亡ぼすときなど数多くの謀はとても私の及ぶところではありません。先に下賜され記録されました爵位は荀彧のずば抜けた功績にふさわしくありません。どうか彼の領邑を古人並にしてくださいますように」と上表したが荀彧は深く辞退した。
　曹操は「君が辞退すると私は君の功績を盗んだことになってしまう。どうか辞退しないでくれ」と荀彧に言い、再度上表して荀彧を三公に任じようとしたが、荀彧は荀攸を使者に立て深く辞退し十数度に及んだために、やっと取りやめになった。
　西暦２１２年、演義にも書かれているように、曹操を魏公にする動きがあったが、荀彧は「義兵を起こしたのは、本来朝廷を救い国家を安定させるためであり、真心から忠誠を保持したのだからそれはよろしくない」と反対した。
　曹操は内心面白く思わなかった。
　折しも孫権征伐（そんけんせいばつ）が行われ、荀彧も従軍したが曹操が濡須（じゅしゅ）に到着したときに荀彧は病気になって寿春（じゅしゅん）に残留し憂悶のうちに逝去した。
「魏氏春秋」では、曹操から贈られた食物が空っぽの器だったため荀彧は毒を飲んで自殺した。とあり、演義ではこれを元に書かれている。

【しかし、曹操は「二人の荀尚書令の人物鑑定は、時が経てば経つほどますます信頼に値する。わしはこの世を去るまで忘れないぞ」と言っているので、魏氏春秋や演義の記述には首を傾げる。】

　陳寿が書いている。
＜荀彧は涼やかな風貌、道理をわきまえた態度、王佐の風格を備えていた。しかし、時運を認知し先見の明がありながら、自己の理想を完全に実現することはできなかった＞

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